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【認知症予防・ニューロフィットネスについて】

医療コラム

認知症の予防について

近年、認知症の危険因子というのが明らかになっています。関係が高い順に、うつ病、聴力障害、外傷性脳損傷、低教育歴、社会的孤立、喫煙、肥満、高血圧、糖尿病、身体不活発、アルコール摂取過剰、大気汚染が報告されています。このうち、高血圧、糖尿病、肥満、身体不活発(運動不足)、喫煙、アルコール過剰については生活習慣病の予防と一致するところであり、現時点でも予防介入はされていると考えています。一方、うつ病、聴力障害、外傷性脳損傷、社会的孤立については、予防法が体系化されているわけではなく、私たちが取り組むべきテーマ―と考えています。

まずは、外傷性脳損傷です。事故で大きな脳損傷を受けたというケースばかりでなく、若い時にスポーツ競技の際に頭部を打撲し脳振盪となったというような軽微な頭部外傷も含まれます。実際、ボクシングの選手やアメリカンフットボールの選手ばかりでなく、サッカー選手においても認知症を発症する危険が2倍になるという報告があります。そもそも、スポーツを含めた運動・身体活動は認知症の予防に重要であり、認知症予防の観点からもスポーツを推奨する立場ですから、いかに安全にスポーツを行うかについても関心を払っていきたいと考えています。当院では、東邦大学医療センター大橋病院の中山晴雄先生の指導のもと、脳振盪の診療・リハビリテーションの診療システムを開発しています(スポーツ頭部外傷・脳振盪外来)。

次に、うつ病の予防です。予防精神医学という分野がありますが、うつ病の明確な予防法というのはありません。しかし、うつ状態を、その人に備わっているパーソナリティ(認知様式や対人関係様式)や発達特性、外部からのストレスが複合的に絡み合って発症すると考えるのならば、これら、パーソナリティ、発達特性、ストレス反応に対して、若い時からアプローチしてみてはどうかと考えらえます(大人の発達障害外来・腫瘍精神科外来・スポーツ精神科外来・新型コロナ後遺症外来)。ストレスに関連した精神病理の予防という視点より、近年「レジリエンス」という概念が注目されており、レジリエンスを高めるための認知行動療法とポジティブ心理学的な支援を統合したレジリエンストレーニングも検討されています。うつ状態も早期発見、早期治療が求められると考えられますが、私たちはうつ状態の前段階として疲労に注目しています(疲労・睡眠外来)。疲労はさまざまな疾患で引き起こされますが、その一番の治療は休養です。疲労の状態で早く気づき、しっかり休養をとって回復させることが、うつ病予防にも効果的なのではないかと考えています。効果検証はまだこれからですが、認知症予防の観点から広く一般の方へ応用されるものを作っていけたらと考えます。

聴覚障害については、特に加齢性難聴の予防法の開発が待たれるところです。視力障害についても認知症の危険因子になり得るとの報告もあります。耳鼻咽喉科学、眼科学の進歩もキャッチアップしていきます。

最後に社会的孤立です。海外では、生涯独身や死別を経験した方は認知症になりやすいとの報告があります。本邦でも、婚姻関係、家族サポート、友人、社会活動への参加、有給の仕事が、認知症の発症と関係するという報告があります。人の生き方について、医師がいちいち口を出す話ではないとも思いますが、少なくとも孤立・孤独を解消したいと考える方にとって、社会に参加するための支援については私たちも関心を持っています。社会への参加はリハビリテーションの最終的な目標でもあります。近年の、フレイル予防において、運動・身体活動、栄養・口腔ケアに加えて、社会参加が重要であることが明らかになってきました。高齢者の社会参加については、①外出の機会の創出、②会話の機会の創出が柱となると考えています。社会的処方という言葉も紹介され、かかりつけの医師が、患者の孤独・孤立に関心をもち、その解消を支援するシステムに紹介するという流れが作られるのは近い将来と想定しています。私達は、社会参加はまちづくりするとリンクすると考えており、一般社団法人おやまちプロジェクトや東京都市大学コミュニティマネジメント研究室と協働し、「おやまち暮らしの保健室」の活動を支援しています。

 

ニューロフィットネス理論

ニューロフィットネス理論は、私たちが認知症予防のために考えた独自の理論です。まず、長年の認知症の方の臨床から、認知症の発症の前に、①体重が減った、②歩行速度が遅くなった、③抑うつや不安がでてきた、という方が多いことに気づきました。これらはまさにフレイルの状態です。認知症の前段階として軽度認知障害が注目されましたが、軽度認知障害を主訴に医療機関にかかる方はいません。また地域住民の方を健診のように全員検査するのも容易ではない。しかし、上記の3つの症状に気づいた方は、医療機関に受診しているかもしれない。しかし、私たち医療スタッフが見逃しているだけかもしれないと考えました。

フレイルの研究が進む中で、フレイルの前段階はロコモであることが明らかとなってきました。ロコモは概ね40代からはじまります。40~50歳代の方を多く診ていると、腰痛・肩こりなど運動器の不調=ロコモの前段階があるものの、特に深刻に考えていない方が多いと気づきました。そもそも、腰痛・肩こりも出る人とでない人がおり、そもそも腰痛・肩こりは更年期障害で出現しやすい症候であり、腰痛・肩こりの診療を行う上で、性ホルモンの減少(更年期)に注目する必要があることがわかりました。

また、腰痛・肩こりが出現しやすいパーソナリティがあることやストレスが関与していることもわかり、性ホルモンばかりでなく、パーソナリティやストレスにも関心を持たなければならないこともわかりました。パーソナリティやストレス耐性は成人早期に形成されると考えられています。うつ病は認知症の危険因子であることがわかっており、もし予防を考えるなら、成人早期からうつ病予防を目的とした介入が必要かもしれない。

さらに、脳振盪が認知症の危険因子になるということがわかってきました。脳振盪は多くは学生が部活動などでスポーツを行う際に生じます。そうなると、小児期からスポーツ医学の視点で脳震盪やスポーツ傷害(ロコモの原因の一つ)を予防するような介入が必要かもしれない。

このように、脳振盪・スポーツ傷害→メンタル障害→慢性疼痛(腰痛・肩こり)→更年期障害→ロコモ→フレイル→認知症という流れを止めていくための方法はないか。もちろん、生活習慣病→認知症の流れも止めていかなくてはならない。この2つの流れを止める方法を「ニューロフィットネス理論」と称して、開発していきたいというのが当院の考えです。今後、新たな知見をどんどん取り入れて、常に最新化させていきたいと考えています。

現時点で、

  • 小児期からのスポーツ医学→脳神経外科/整形外科
  • 成人早期のメンタルヘルス→精神科
  • 中年期からの生活習慣病・がん予防(MRIを利用)→家庭医外来/呼吸器内科
  • 腰痛・肩こり・膝痛と更年期障害→整形外科/疼痛緩和内科/更年期外来
  • ロコモ・フレイル外来(認知症の前段階)→整形外科/ロコモ・フレイル外来
  • 物忘れ外来→脳神経内科

という形で、当院のすべての診療科や専門外来が認知症予防に結びついています。